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ロンドン、ザ・ドーチェスター [セルフィッシュ・ジャーニー]

カメラが無いのに気づいたのは、テートギャラリーで大好きなターナーを堪能して、在住の台湾人メイと別れて一人The Dorchesterの部屋に戻った時だ。
ヒースローに降り立ってからレンタカーを借りて廻った8日間のすべて、200枚以上の写真を収めたカメラだ。
明日は日本へ戻らなければならない。
青くなってメイに電話したり、あるいはレセプションに届いているかも、と電子辞書片手にコンシェルジェに必死で問い合わせをしたが戦果なし。テートギャラリーからの帰りに乗ったブラック・キャブの中に置き忘れたことだけは確かだ。
予約していたアロマセラピー・アソシエイツのスパもキャンセル。夕暮れのハイドパークを横切って土産を買おうとハロッズまで歩くが足取りは重い。
それまでの行程がが素晴らしく楽しかっただけに、一枚の写真も無くこの旅行を記憶に留められるのか、私には自信が無かった。

The Dorchester。
ごちゃごちゃしたピカデリー・サーカスから数分で着く、ハイソサエティな界隈メイフェアにある貴族の館を改装した美しいホテルだ。
しつらいは名門の名を汚さない。
幾重にも重ねられたカーテン、コインを投げればピンとはずむほどに張られた細い番手で織られたベッドリネン、たっぷりと枚数が用意されたパイルの目が込んだタオル類。
ホテルサービスのクラスはリネンサプライの上質さと比例する。
ちょっとした夕方の散歩の間に入るターンダウンも絶妙のタイミングだ。

アメニティはたっぷりと1週間分はあるFLORIS。
ほとんどがフローラル調の香りに染まった日本のプロダクツとは異なり、ボディローションはスパイス系、シャンプー類はシトラス系とめりはりが楽しい。

最も感心したのは館内に流れる香りである。
イチジクのフルーティな香りはみずみずしい澄んだ朝露を思わせる。
開発者はリン・ハリス。換気システムを通じてロビーや通路はすべてこの香りで満たされている。
こぞって開発した独自の香りで、香り立つ世界のホテルは客の記憶にそのイメージを刻み込む。記憶を辿り、客はまた甘美な時間を過ごすため同じホテルを選ぶのだ。
嗅覚と記憶の密接な関係は、ここ数年解明が目覚しい。

カメラは無くなったがこの香りが私の記憶だ。
我が家へ着いてそんなことを考えながら旅支度を解き始めた時、電話が鳴った。
「カメラがブラック・キャブから届けられました。私の責任において日本のご住所にお送りします。」
紛れも無く、あのコンシェルジェの声だ。
Wonderful Dorchester!
Wonderful London!


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