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クリニック、赤ちゃんの産み方 [ウッド]

初夏の気持のいい快晴が続いた後に、3月下旬並みという寒さが雨を連れてやってきた。
連休後の混雑が続いている中でのそんなある日、一件の帝王切開術(以下、C/S)が行われた。

患者さまは妊娠中からずっとオフィキナリスに通われていた方だ。
明るくて楽しいおしゃべりが大好き。
私も彼女への施術の日は、本当に楽しい気持ちにさせていただいた。

第一子を他院で緊急C/Sで出産した彼女が、今回にしじまクリニックを選んだのは、VBAC(前回の出産がC/Sだった方が、経膣で分娩すること。縫合壁からの子宮破裂が予測されるため、行わない産院が多い)を希望してのことだった。

VBACは子宮の縫合痕と陣痛時にかかる圧力との、文字通り皮一枚のせめぎ合いなので、院長がこれ以上の陣痛の継続は危険と判断した時点で緊急C/Sに切り替わることも多く、私がレセプトで判断する限りでは成功率は半々といったところだ。
それでもVBACを希望して当クリニックを訪れる方は後を絶たない。
自分の力で産みたい!という母親の気持がどれだけ強いかが痛いほど分かる。

彼女は妊娠半ばで骨盤位(いわゆる逆子。分娩直前まで修正の可能性があるが、そのままだと選択C/Sとなる)と診断され、一生懸命逆子を直す体操をし、修正がかなった時は本当にうれしそうだった。
私までもがこれでVBACへ向けて一直線!と気負いこんだものだったが、36週の健診で今度はCPD(児頭骨盤不均衡。胎児の頭が骨盤の出口より大きい状態。これも選択C/Sとなる)の診断が彼女に下った。

その診断を受けた足で彼女は私のところへやってきた。
「だめでした。連休明けにC/Sしてもらうことに決めてきちゃいました。」

いつものように明るく、さばさばした口調であり、特に医療従事者である彼女は冷静に診断を受け止め、状況も十分理解し、覚悟もきっぱり決まっているようだった。
諦めきれないのは私のほう。
なんで?なんで?
夫の下した診断で、医学的には仕方がないんだと分かっていても、混乱してしまっていた。

「陣痛時の助けにすることはできなくなったけど、せめてOPEのときに大好きなベンゾイン(Benzoin:Styrax benzoin)を嗅いでいたいです。」
との彼女の言葉に、奮起した。
夫に脊椎麻酔でも香りが分かることを確かめ、ベンゾインとラヴェンダーを3:1でブレンドし、拡散しやすいように少量の無水エタノールに溶解させたブレンドオイルを作った。

手術の朝、デフューザーとブレンドオイルを持って、彼女の部屋を訪問した。
病衣に着替えた彼女はイケメンの旦那様(私のクライアントさんの旦那さまはなぜか皆イケメン)とにこやかに迎え入れてくれ、持ってきたオイルを覗き込んで
「わあ、いい匂い!」
と喜んでくれた。

彼女が入室する30分前からOPE室にそのオイルを拡散させ、彼女が入ってきた時に香りを感じてもらえるようにした。
OPEが始まって30分ほどでかわいい女の子が誕生、デフューザーのベンゾインは大切な役目を全うした。
私はOPE室の外で元気な産声を聞いていた。

クライアントさんはすべて妊婦さんという特殊な環境ゆえ、何人もの方の妊娠から出産への心の変遷に寄り添う毎日である。
その中でいつも思うのは、お産には個性が伴う、ということである。

私が出産をした26年前には、お産は医者任せ、個性も希望も、もちろん選択肢もなかった。
子供は無事に産めさえすればそれでよし、産み方そのものにこだわるなんてことは微塵も考えはしなかった。

しかし、少子化、情報化の時代、医者任せのお産でいいのか、という風潮が広まり、個人が自由に産み方の希望を言えるようになり、また医療技術の進歩や医師の努力によってそれが大部分において叶えられるようにもなった。
事実、そんなニーズに応えて、にしじまクリニックには「お産の企画書」があり、患者さまがどのようなお産をしたいかを発信できるようになっており、医学上の制限がない限り、その希望にできるだけ則した出産ができるようになっている。
ネットをはじめいろいろな媒体から発信された情報をフルに活用して理想のお産を目指す方もいるし、あまりこだわらずスタンダードなところを望まれる方も沢山いて、十人十色の個性が見て取れる。

「産み方」は母親だけの個性の反映だ。
産み方で人生が左右される、という方もいる。

しかし産み方は新しく生まれてきた赤ちゃんの人生までは左右しない。
たとえ希望の方法が何らかの理由でできなかった場合も、安全にこの世へ我が子を送り出すことができれば、母性はそれでなんら咎められる理由がない。

彼女は小さな赤ちゃんを抱いて本当に幸せそうだ。
この子の元気な産声には、経膣で産まれてこなかったことへのこだわりは微塵も感じられない。











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