軽井沢、妻たちは荷を降ろす [フローラル]
遠来の客の目覚めは遅い。
フルーツを盛りつけ、朝食を支度する
夫にその辞令が下ったのは、20数年前。
まだ医局制度がばんばん布かれていた頃。
山形県東根市という小さな温泉町にある公立病院に派遣となる。
長男が幼稚園に上がろうという春浅い日。
赴任の日に、医局へ道順を問うと、
「国道まっすぐ。その辺にでかい建物はそれ(病院)しかないから、誰でも判る」
と言われ、半信半疑で出かけるが、そのとおりだった。
あてがわれた宿舎は、5件が連棟に連なった長屋風の医師公舎。
その真ん中の3号公舎が我が家だった。
同じ棟の1号公舎は同じ産科のT先生。
身体は大きいが気持ちは繊細。
活発ではきはきした元ナースの奥様が頼もしかった。
お隣の4号公舎は外科で家電オタクのU先生。
20数年前の当時にもうパソコンや大型テレビがあった4号公舎で、我々はことあるごとにムービーナイトを楽しんだものだ。
奥様はさっぱりとした気性のピアノの先生だった。
両家と、特に私はこの2人の奥様と仲良くさせてもらい、毎晩のように一緒にご飯を食べたり、子どもを預け合ったりして楽しい赴任生活を送った。
それぞれの任期を終えて東京に戻っても家族ぐるみの付き合いが続いたが、数年後にU先生の訃報に接し、また子ども達もそれぞれに大きくなって、いつの間にか縁遠くなってしまった。
そして医局制度の廃止と共に、夫の大学は東根への派遣を打ち切り、夫や両先生達の後輩があの医師公舎に住むことも無くなった。
ちょっとしたきっかけがあり、お互い子育ても一段落したところでと、T先生の奥様とU先生の奥様を軽井沢に招き、3人で1泊2日の懐かしい休日を過ごす。
一人だと絶対行かないアウトレットモールでショッピングをしたり。
ゼラニウム(Geranium:Pelargonium graveolens)のキャンドルを焚いたお風呂で汗を流してもらった後は、近くの店に繰り出してワインを飲み、夜の更けるのも気付かないほど積もる話しに熱中したり。
まるで修学旅行のようだ。
翌日は旧軽のフレンチの老舗、『プリマベーラ』でランチ。
http://www.karuizawa-primavera.com/
車担当の私はトニックウォーターだが、五味子(むかご)のジュースをスパークリングワインで割って。
トリュフと烏骨鶏のムースは、濃い黄身がとろりと流れ出して最高。
あの日、夫の赴任先に分けも判らず付いて来て出会った私たちは、また夫についてそれぞれの地に散って子ども達を育てた。
我が家も結構大変なことがあったが、T家も、特にお嬢さんたちが小さいうちに先生を亡くしたU先生の奥様も、一口では語れない人生を歩んで来たのだと思う。
でも、辛かったことなんて話しても仕方ないさ!
我が家以外、全員が適齢期のお嬢さん達のいる両家の目下の悩みは婚活。
軽井沢の涼風に、いっとき妻達は荷を降ろす。
2009-07-26 20:32
nice!(0)
コメント(0)
トラックバック(0)
コメント 0