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ふじみ野、RDS [クリニック・シンドローム]

その日は何だか朝からそわそわして、カメラのバッテリーにも抜かりなく充電してクリニックへ行く。
その日私はクリニックの人間ではなく、患者の義母で、生まれてくる新生児の祖母になるはずだったからだ。

・・・・で確かにそうなったのである。

12:00。

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執刀する長男と補助の夫がオペ室に入室し、「よろしくお願いします」ってな感じで。

長男と夫がおヨメさんの帝王切開を行い、孫を取り上げる。
身内でワイワイな感じのリラックスムードあふれるOPE風景が想像できた。

妻であり、母であり、祖母である私には、孫の生まれ出てくる瞬間はもちろん、普段見ることの無い夫のメスさばきや、5年間で不肖の息子が培ったはずの技量を確認する希少な機会だった。

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すっと一筋、長男のメスが走り、ヨードの黄色の上に赤く細い糸を描いた。

計測器のサイン音を凌駕するジョキジョキというハサミのあまりにも現実的な音に、人体のオペというのはもっと繊細なものだと思っていた私はビビりまくった。
振り払っても、振り払っても、私の頭の中は、お母さんヤギがオオカミのお腹をハサミでざくざく切って、7匹の子ヤギを助け出すシーンでいっぱいになった。

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私の躊躇には無関係に(当たり前だが)、あっという間にベビーが出て、大きな産声をあげた。
オペ開始からものの10分と経っていなかったように思う。

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自分のお産の時もそうだったように思うが、ささっと視線の端で手足の指の数なんかを確認する。
あとになって、そんなことは無意味なことだと分かるのだが。

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胎脂を拭いてもらったベビーはママのもとへ。

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その間、テントのこちら側では、後産の処理が続く。

出血も少なく、それほどスプラッターな光景でもなく、安心なお産のように思えた。

長男が我が子を抱っこしたのは、ようやく術衣を脱いでから。
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おヨメさんがストレッチャーで運ばれていき、クリニックの中で最も緊張を強いられる空間であるOPE室に、ほっとした和やかな空気が満ちた。

何だか外の空気が吸いたくてスタバに行き、ラテとクロックマダムを緊張で硬くなった胃に流し込んでクリニックに戻ると、新生児用の大きな救急車が入退院入口に横付けになっていた。

「まさか、うち?!」

まぎれもなく、うちであった。
長男のベビーはRDS(呼吸窮迫症候群)と診断され、一度もママの腕に抱かれずに、遠い岩槻の小児医療センターに搬送されていった。

肺サーファクタントという肺界面活性物質の分泌が未熟で欠乏し肺が呼吸で十分に膨らまない症状で、さまざまな呼吸障害がおこるのだそうだ。

未熟性であり、特に奇形は見られないとのことなので、とりあえず呼吸器を付けて、正常な呼吸ができるまでのNICU暮らしとなった。

一人目の碧ちゃんがヒルシュスプルングを持って生まれてきた4年前、私たち家族は、「無事なお産は決してあたりまえにはやってこない」ことをしっかりと自分の身に刻んだはずだったし、その確率が産科医療従事者の家に振り分けられた意味を何度も考え直したはずだった。

でも、2番目のあかりちゃんが普通に健康に生まれ育ち、碧ちゃんも元気に生活している今、その意味や確率や下りたステージを忘れてしまっていたように思う。

救急車を見た時、私が「うちじゃないよね?」と一瞬でも思ったことは、他の新生児への該当を思ってしまったということだ。

4年前、一度自分の気持ちを涙で洗い流し、真っ新にして前を向こうと思ったあの気持ちをもう一度取り戻して、ベビーの回復を待ちたいと思う。




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コメント 2

朋子

まなさん、お話しが急展開で一気に読ませていただきました。
早くご回復されますように、心からお祈りします。
by 朋子 (2012-11-16 13:05) 

mana

朋子さん、ありがとうございます。
一歩一歩ですが、回復に向かっているようです。
by mana (2012-11-16 22:58) 

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