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乃木坂、竹のカセドラル [フレグランス・ストーリー]

乃木坂。

ドラムの練習の帰り、TOTOギャラリー間へ、竹のカセドラルを観に行く。
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次男がホーチミン市へ渡ったのは震災の年だった。

1週間後に大学院の卒業式を控えて国内の有望な建築家のオフィスに就職も決まっており、在学中から香港のプロジェクトも任されて前途は洋々に思えたが、震災がすべてを変えてしまった。

あの震災と津波による住宅の崩壊で、日本の様々な建築家たちがこれまでの価値観と積み上げてきた経験とを喪失したと言われるが、次男のようにそれまで大学と大学院で学んできた建築の知識と将来の展望を一度に手放さなければならなかった者も少なくないはずである。

1週間後の卒業式は執り行われず、総長のメッセージだけが新聞に掲載された。
「この震災を経験した者として、世の中に役に立つとはどういうことか、それを真摯に考え、実現していくことが、今日この大学と大学院を卒業する者の最大の努めです」というような内容だったと思うが、学業を修め終わったその時にこの体験をすることが、きっと彼の道を照らす指標となる日が来るのだろうと絶望の中で思い直し、読んでいて涙が溢れたのを昨日のことのように思い出す。

国内の就職先を失った次男は、同じ大学に留学されていたギアさんがホーチミン市に立ち上げたヴォ・チョン・ギア・アーキテクツ(Vo Trong NGHIA Architects)http://votrongnghia.comに誘われ、震災の半年後、本当に自分の手で持てるだけの身の回り品を持ってベトナムに旅立った。

夫と私はアドバイスも援助も出来ず、11月の身が引き締まるような寒い朝、成田行きのバスに乗る彼を見送るだけであった。
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次男は医者ばかりの家系を飛び出し、なぜ建築を選んだか、と度々人に聞かれることがあると言う。

私が聞いた限りでは、そのきっかけは、彼がまだ中学生か高校生かの時に、私が連れて行った建築の専門ギャラリー、「間」での安藤忠雄氏の個展であったらしい。

私、建築に関しては何の知識も無いが、写真集で見た従来の建築には決して見られなかった荒々しいコンクリート打ち放しの、当時まだメジャーになりかけの安藤氏の建築は衝撃的で、、ギャラリー間での個展は是非行ってみたいものだったと記憶している。

それにどうして彼を伴ったか覚えていないが、心の隅で「もしかして」という企みがあったかも知れないとは思う。


まあ、その企みはまんまと功を奏したということにはなるのだろうが、彼は建築を志し、そして思いがけなく流れ着いた海外のオフィスがあのギャラ間(ギャラリー間を彼らはこう呼ぶ)に出展する。
http://www.toto.co.jp/gallerma/ex151017/index.htm

オフィスとしての出展ではあるが、スタート地点たる場所とあの時何もできなかった母親の心へ、彼は凱旋してくれた。



次男はオープニングの1週間前、現地のバンブーワーカーと呼ばれる職人たちを連れて帰国。

朝から晩まで、ギアさんのシグネチャー、竹の建築をギャラ間に組み上げる仕事に没頭していた。
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朝早くに家を出、終電で帰る毎日。

夫のためには朝7時前には起きない(パパ、ごめん)私が5時半に起きて朝食作り、夜はスマホで終電の到着時刻とにらめっこ。
最悪なのは、終電逃がして「まん喫に寝るわ」メール。

まん喫って?
今まで起きて待ってた私はなに?

息子、めんどうくさーい!


そんな日々が終わり、ギャラ間はオープニング。
次男はシンポジウム出席で不在だが、私は一人、彼の4年の成果を彼のスタート地点で見る。

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腐らないように液に長期間浸された竹はベトナムから搬入、金属製の釘ではなく、竹を鉛筆形に削ったくさびのようなものと布製のひもで、結合部ががっしりと組まれている。

竹が交差して組まれた空間は教会ではないのだろうが、私には祈るカセドラルのように思える。



次男はオープニングに漕ぎ着けてすぐにベトナム戻り。

朝彼をギャラ間に送り、ようやく早朝ご飯と終電待ちぼうけから解放されて軽井沢へ。

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碓氷峠の日没。

山荘は紅葉の懐に抱かれている。
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そろそろ、ホーチミン便の離陸時間だ。




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