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ふじみ野、家族という病 [マイハーベスト]

ようやく父を母の傍へ葬る。



2月に亡くなった父は、宗教上49日という慣習に囚われず、ずっと私の家のリビングに居た。
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訪れる人みんなが、部屋の一番奥からリビングを睥睨する父の遺影に、はっと恐れをなして会釈するのがちょっと可笑しかった。
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私と父が相愛の父娘ではなかったことはこのブログで何度も書いたけれど、今思うのは、そう思っていたのは私の方だけで、父は私を相容れない仲の娘だとは露ほども思っていなかったのではないかということである。

彼にとって娘とは父親の愛情表現を当然のこととして受け入れ、その裏返しとして彼からの指図を無条件で許諾する、そういう存在だと最後まで信じて疑わなかったのだろうと思う。
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その思いは偏っていたとしても罪が無く、私がそれを疎み、悩んだことすらも気が付かず、よって修正も後悔も謝罪もせず、彼はこうして最後の別れがくるまで私に対して一方的であり続けたのかも知れない。





「標準的な」家族は愛し合い、仲良くあらねばならない。
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家族という単位を考えた時に、いつもついて回るこの呪縛。

そのスタンダードからはずれたことにより生まれる私の自己嫌悪の念を察して、父の没後すぐバンドの一員がこの本を私にくれた。

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「家族という病」(下重暁子著/幻冬舎新書)

渡航続きで書く期を逸していたが、父の埋葬を期に読後感を記す。



著者の「父親不在」は、軍人であった父が敗戦後いとも簡単にその誇りを捨てて俗化したことに端を発する。
自分をリードしていくべき父親の人間としての薄さ弱さを垣間見た時、その指示や指図が支配的であればあるほど真っ黒になって嫌悪感を伴う瞬間を私も経験している。

そんな父に、自分の人生の価値も考えることなく寄りかかろうとする母。
早々にその渦中から逃げ出した兄。

形状的に決定的崩壊に至らないまでも、著者は自己の家庭がもはや世に言う幸せの基準を満たさない、家族それぞれがどこにも寄り添おうとしていないことに愕然とする。

そして時を経て、一家団欒という言葉が象徴する美化された家族とは何なのか、夫婦がユニットである欧米諸国とは異なり、親子関係を軸として、時として個の人生をさておいて話題は家族のことばかりという日本人の家庭への思いの特異さとは、と問いかける。



本著で幾度も著者が試みているように、家族を考える時には、自分の育った家庭と自分が形成してきたそれの二つを比較することになる。

私の苦い父娘の関係と、自分の母親としての息子達への接し方は一概に比較は出来ないかも知れない。

長男次男とも、小さいうちから大学生になったら家を出なさいと私に言われて育ち、それまでの壮絶な反抗期を置き土産に言いつけ通り18才で家を離れ、それからは好きに放浪、留学、派遣、勤務と海外へ出ることが続き、そして長男は結婚したので、かなり前から物理的に私と夫という基本単位に寄り添うことは少なかった。
彼らが投げてくる我々夫婦への批評は時々寛容で時々非常に辛辣だが、家族とは夫婦を核とした最小の血縁関係でありさえすればよいと思う私にとっては、息子達が外的で客観的なスタンスに居る今の状態はむしろ心地良い。

渦中の息子達にとっては居心地の悪い家庭だったかも知れないが、私の進学から恋愛、結婚、子育て全てを支配しようとした父の過剰な家族への執着は、真逆の形で私の中に結実しているように思う。



著者は本著で日本人の家庭神話の要因をこう分析している。

生活の核たる絶対的な宗教を持たない日本人は、他人を自分の家族と同じように愛することが難しく、家庭という殻に閉じこもって小さな幸せを守ろうとする病にかかり易い。

また戦時中そうであったように、国が管理のために家族という最も小さな国家形成を礼賛すると、小型の国家たる家族は排他的にならざるを得ない、というものである。

極論なのかも知れないが、宗教と政治、そして歴史的背景が日本の家庭の概念に大きく影響を与えていることは間違いがなかろう。

日本人が家族に描く無意識の理想は、子どもが巣立った後の空の巣に対してどう投影されるのか。
その後何倍もの時間を共有する夫婦というユニットに何を投げかけるのか。





父を送り、夏が来る。

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ようやく日本のスタンダードから解き放たれる日が来る。










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