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軽井沢、白鯨 [マイハーベスト]

軽井沢は一足先の秋の気配。

地球の歩き方がブータンの気候を「軽井沢のよう」と評したのは言い得て妙。
まだティンプーに居るような錯覚に陥る。
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ほっこりとお鮨を食べる。
日本へ戻ってきた幸せを感じる瞬間である。
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エマ、エマ、エマ。



エマはゾンカ語(ブータンの第一言語)で唐辛子のこと。
3人はすっかりブータン料理のファンになり、それぞれ居住国に戻って、一番代表的な料理、エマダツィ(ダツィはチーズの意)再現普及に努めている。
(ブータン政府から特命は受けていない)
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ホーチミン市の二人はついに友達を集めて「エマ・ナイト」なるパーティまでやらかしたらしい。
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唐辛子の種を素手で取るので、カプサイシンが掌から大量に体内に混入するらしく、次クニは半死半生の目にあったらしい。

それでも食べたいエマダツィ。
唐辛子の刺激が、感情と記憶と欲望を果てしなく活性化する料理である。





ブータンの深い緑の山に抱かれながら海のロマンを読む。

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「白鯨」(メルヴィル著/八木敏雄訳/岩波文庫)

サマセット・モーム選世界10大小説の一つ。
間違いなくアメリカ文学の筆頭株に挙げられるだろう。

500頁×3冊。
鯨並みのこの分量を読破するのは、これはもう読書というより修行である。

過去に一度読破を断念した超大作を読書会に提起して再び挑むのは、相手がいれば簡単には引き下がるまいという退路を断つ意味もあり、前々回のテーマ本であったユニークなアメリカ文学論「ターミナルから荒れ地へ」(藤井光)の、混沌とした近代のアメリカ小説以前に文壇を席巻した白人作家達の「偉大なるアメリカ」描写の手本となったのが、このメルヴィルの「白鯨」である、との記述が頭を離れなかったからである。

おりしもグレイト・アメリカを掲げたトランプが渦中にいるその時に、アメリカという巨大なノイズを一冊の本にまとめるに要した分量と戦い、その真髄を探りながら、これからのアメリカを占う大統領選を見守るのも悪くなかろう。

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ストーリー自体はあっけない。
老エイハブが、自分の片足を奪った白鯨モービィディック捕獲に執念を燃やす航海を追う。
過去小年少女世界文学全集で抽出された内容を既にご存知の方も多いだろう。

圧巻は大長編をモザイクのように編んでいく、ありとあらゆる鯨進化学、捕鯨屠鯨風景、鯨解剖学。
そこにこれでもかと加えられるピークオッド号船上の人間模様、他捕鯨船との擦れ合い、洋上の掟。
様々な要素が無作為にストーリーに関係なく挿入されるため、読書航海は困難を極める。
この頃の米文壇巨匠達が、大きくなければアメリカではないという強迫観念に囚われていたのではないかという藤井(前出著者)の指摘は、必ずしも誇張や揶揄ではない気がする。

しかし常に「150年前の捕鯨において、何がグレイト・アメリカ的なのか」という当初の疑問を頼りに読み進めると、それが果てしない荒海の中で羅針盤代わりとなってくれる。

甲板における当時の人種間格差、しとめ鯨とはなれ鯨の所有権、大量の鯨油や竜涎香の錬金術、権力者の抹香鯨搾取、はては「白いこと」へのオマージュ。
そして大量の乗組員達を道連れにしてさえも、自分の欲望を果たそうとする老エイハブの存在。

3年間単独洋上生活という巨大、かつあらゆる機能を積み込んだ社会の縮図である捕鯨船が、今ならセンシティヴに傾きそうな、あまりにもストレートな傲慢を満載している。
しかしそれに対する悪びれなさがアメリカのアメリカたる所以で、それはきっと脈々と今に受け継がれているのだろう。

もちろんそれが今のアメリカの綻びと直結しているというつもりも無い。

しかし巨大だということ自体が他の小ささを睥睨するとしたら、畏れを知る機会は自ずから失われる。
その結果を、今のアメリカは待っているのかも知れないとは思う。



今回あえて、私は岩波文庫版八木敏雄訳を、相方は新潮文庫版田中西二郎訳を読み、訳の違いまで味わおうという趣旨であったが、量が膨大過ぎてお互いを交換して読み進めるまでには至っていない。
(つまりこの分量を2回繰り返すということである)

英語の文学を読む時に必ず考えなければならない翻訳の違い。
それを楽しむまた面白いエッセイも、この流れで入手した。
読書の面白さは、そうやって自分の興味がまたどんどん発展して広がっていくことでもある。

そのエッセイについてはまた次に記そう。




近所のスタバでランチ。
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店名のStarbucksは、ピークオッド号乗務員の唯一の良心とも言える一等航海士、スターバックが由来だという。

創業者の核たる信念が垣間見える。




















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