ウィーン、パイプオルガンの調べ [セルフィッシュ・ジャーニー]
石畳からしんしんと足下に伝わってくる寒さに耐えかねて押した古い木の扉の向こうに広がったのは、天上の世界とはこのことかと思わせるような光景とオルガンの調べ。
歩行者天国のグラーベン通りの奥にひっそりとたたずむ、バロック様式のグリーンのドームを抱くペーター寺院。
聖堂に満ちるパイプオルガンの調べに制されるように固い木のイスに座って、30分ほど聞き入っていたのだろうか。
卵形のドームのフレスコ画はロットマイヤー作。
この旅で一番感動したかも知れないこの光景の中に身を置くアドミッションはフリー。
写真も録画も許されている。
ウィーン、音楽に関しては本当に芳醇で豊かな街だ。
そのちょっと手前の大観光名所シュテファン寺院が、照明も付けずに薄暗く、大挙して押し寄せる観光客からいちいちカタコンベや内陣の入場料を取るのは、比べてみればあまりにも俗っぽく感じる。
そして、今回もベートーベン・フリーズには会えなかった。
間違いなく見学に漕ぎ着ければ、今回のウィーンで最大の目玉になったであろうセセッシオン(Secession)が月曜休館だという事実を見逃していたのである。
前回の微に入り細に入ったプレスツァーで、このユーゲントシュティールの至宝がスケジュールに入っていなかったのはどうしてなんだろう(やっぱり月曜だったんだろうか。今思えば)。
金色のキャベツと呼ばれる月桂樹のボールを屋根に載せた印象的なデザインのセセッシオンは、若き芸術家ブループ「分離派」が自分たちを閉め出した保守派から「分離」して、自らのデザインで構築した自分たちの作品発表の場だ。
グループにはクリムト、オルブリヒ、ホフマンなど、その後のウィーン芸術を牽引するそうそうたるメンバーが名を連ねる。
まあ中には入れないが、私の一番見たかったのはオルブリヒの建物のそのもののデザインだったので、周りを3周くらいしてなめ回すようにそのディティールを堪能する。
フランスのアールヌーボーとはまたちょっと違った、一種独特のモダニズムが加味された印象的なデザインは完璧私のツボだ。
ヘビとトカゲのコラボレーション。
正面の大きな碧球を支えるカメ。
新しい息吹は、常に従来の力に疎まれ、戦ってきた。
古今東西、どの世界でもこの力関係は一緒だ。
「時代にはその芸術を、芸術にはその自由を」
セセッシオン正面に刻まれた分離派のスローガンである。
寒空の下の散策に身も心も凍えたら、天満屋で刺身をつまんで熱燗を引っ掛け、今度はコンテンポラリーアートの殿堂アルベルティーナへ。
目の前は皆さんあこがれのカフェ・ザッハー。
満員のお客さん達が食べているザッハートルテは見た目も胃にも重そうでパス。
あ、ずっしり重いザッハートルテは抜かりなく日本に配送してもらうよう手配しときましたから、そこのところよろしく。
アルベルティーナは、同名の宮殿内をモダンに改装して、デューラーからレンブラント、シーレまでの素描画6万点、はんが100万点を所有する世界最大級のグラフィックアート美術館だ。
素描が好きなのでそちらは楽しめたが、エキジビションの写真展の方がネオナチっぽくて怖すぎ。
「羊たちの沈黙」を思い起こさせるようなこういう一面もウィーンには確実にある。
私のコレクションアイテムのミュージアム消しゴムのモチーフは、アルブレヒト・デューラーの「野うさぎ」。
帰国の時間は刻々とせまる。
おー、病気のクロを預かり、何も言わずに送り出してくれたダンナに何も買っていなかった!
シュテファン寺院のすぐ後ろの手袋専門店。(店の名前の読み方が分かりません)
一坪ほどのホントに狭い店だが、その棚全部手袋。
「男性用、革製、色は黒」みたいにアイテムの希望を言うと、ほいっとばかりに引き出しを開いて、希望に合った何種類かのデザインをざら〜っと出してくれる。
しんなりと肌触りのよい子ヤギの革の手袋、買いましたぜ。
シャンデリアの殿堂、ロブマイヤーも今回はもう取り付ける場所が無く、Just lookig。
最後に香織さんからの情報で、オペラ劇場前の地下道にある「世界一豪華な公衆トイレ」ってヤツを体験(?)しに行く。
2ユーロ弱(でも2ユーロ硬貨を入れてもお釣りは出て来ない)のアドミッション(?)を払って入ると、シュトラウスのワルツが流れ、個室の扉には例のロオジェ(オペラ劇場のボックス席)のサイン。
なるほどね。どちらも「個別」ってことね。
その見事な茶目っ気は、観光客にあくまでサービスする観光立国の鏡のような光景である。
(しかし、トイレお借りするのに2ユーロは高くね?)
ちなみにウィーンには有料の公衆トイレがいろんなところに設置されており、イギリスやフランスで感じるような緊張感は無い。
さあ、出発である。
あくまで優雅なカフェ文化で観光客を送り出そうとするかのような空港。
そう。
国の有名人をアヒルに仕立てて笑いを取るセンス、カツラを被ってオーケストラを奏でる商魂、無償でオルガンを心に浸み渡らせる優しさ。
日本も今後観光立国を目指すなら、オーストリアのこの徹底してツーリストを楽しませる精神と根性を見習った方がいい。
さあ帰ろう、その日本へ。
君たちと楽しかった思い出をトランクに詰めて。
2013-10-08 19:14
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