ふじみ野、グリーンローズ・フラ [ブレンド・プロダクツ]
我ながら本当にミーハーだなあと思うことがある。
映画「フラ・ガール」は私の生まれ故郷の近く、幼い頃連れられて行き、子供心にも「なんだ、これは!」と思った記憶のある常磐ハワイアンセンターの話だというので観てみたにすぎない。
ところが松雪泰子の踊るフラに一目ぼれしてしまった。
そしてひとつひとつの所作にも手話の様な意味があることを知ってどうしてもフラを習いたくなった。
そんな私に我がクリニック内でも数人が同調してくれて、善は急げ。
先生への伝のあるスタッフがさっそく派遣を取り付けてくれ、我がクリニックのフラダンスチームが誕生した。
目標は年末のクリニック忘年会である。
毎年スタッフが色々なチームを組み、工夫を凝らした宴会芸を披露して、優勝チームは院長からおいしいお寿司をご馳走してもらえる、という他愛の無いコンクール形式が組み込まれる会だが、これが妙に盛り上がり楽しい。
今年は新生フラ・チームがお寿司よ!と皆の鼻息が荒い。
何しろ、助産師、ナース、厨房スタッフ、ヘルパー、セラピストとクリニックでそれぞれ勤務時間の違う業務をこなしながらの練習である。
全員で集まれる練習は月2回がやっとだ。
それでも最初フラの「フ」の字も知らなかったスタッフ達が、3ヶ月でどうにか1曲を踊り通せるまでになったのは、それぞれが負けず嫌いで家でかなりの独練を積んだからだろう。
チームの中で2番目に高齢(?)な私は足と手がばらばらで、若いスタッフについていくだけで汗だくだ。
フラには不思議なヒーリング感がある。
クラシック・バレエのストイックさ、フラメンコの熱さとは違って、ゆっくりとしたリズムならもちろん、4拍子に貫かれた早いテンポの曲でも、踊っていると心にゆったりとしたハワイのすがすがしい風が吹き抜けるような気がする。
その情景を皆の心に刻んでもらいたくて、練習場にはいつもデフューザーで香りを拡散させる。
いろいろな香りを試した結果、私の中では今のところヴィアロームの「トロピカル」が一番!という結論に達している。
あまりにもベタだなあと思うが、シトラスとスパイスのブレンドは甘やかな南国を彷彿とさせ、手足の所作も優雅に変える気がする。ネリーさんの命名、してやったりというところだ。
認知症の父の受診が終わると高速を飛ばしても夕方の渋滞につかまり、練習場であるふじみ野に着くのは開始時間をかなり回ってしまう。
父の病状に気落ちしてとても皆の前で笑うことなどとてもできそうにない。
今日は休んでしまおうと思いながらハンドルを握る。
家に帰るには高速を下りてその練習場の前を通らねばならない。
練習場の窓に明かりが点いているのを見たら、自然にハンドルがパーキングのほうへ切れた。
その日はマキ先生とミキミ先生がレッスンの最後にご自分達の踊りを披露してくださるという。
二人の先生の踊りは、寒くて殺風景な体育館の中にあり、しかしそこがきらめく光に溢れたポリネシアの浜辺であるかのような錯覚を私たちに与えるほど幸福感に溢れていて、思わず涙ぐみそうになる。
いつの間にかさっきまで私の胸の大半を占めていた不安や苛立ちは消えて、フラへの憧れとおおらかな愛情に全身が包まれるのを感じる。
私たちの踊る曲は「Green Rose Hula」。
大いなる愛の賛歌だと教わる。
いつかこの曲にぴったりのオイルの香りを探そうと思う。
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