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新宿、リリー・オブ・ザ・バレー [ブレンド・プロダクツ]

マンションのお掃除をしてもらっている合間に慌てて飛び込んだそのデパートのとあるブースの前で、私の足は完全に止まる。
自分が何を買いに此処へ来たのかなどすっかり記憶の彼方へ飛んでいる。

そこには季節を反映してか、あるいは昨今のアロマブームに乗った展開なのか、世界中の有名なアロマキャンドル・プロダクツが勢ぞろい。それもメンズのエリアで。
辞任した安倍元総理が大のアロマ好きでアロマキャンドルをバスルームに点していたというエピソードが頭をかすめる。

IFAの認定をとる勉強を通して、私のアロマ人生のベクトルは常にUKに向いている。
UKへの旅は、いつもフレグランスと骨董を追う。
日本及び東南アジアでのアロマテラピーはやはり根が浮遊している水草のようだ。
形だけのアロマテラピー、名前だけのアロマオイル(このネーミングは正しいのか?)なるものに、いつも落胆させられる。
その点で西洋医学が生まれる以前から薬効効果に注目して生活に根ざしたアロマテラピーが展開されていたUKやフランスの考え方の深さ、エッセンシャルオイル(以下EO)の質や種類のレベルの高さ、多さには圧倒されるものがある。
EOそのものは希釈したり、禁忌を理解するのに一定の知識が必要なので、なかなか取り付きにくいのが現状だが、その質の高いEOを利用して作ったプロダクツは一般の利用者にも身近なものだ。
フレグランス・プロダクツはその製造過程で多少なりとも化学合成を経るため、EOそのものの薬効は期待できないが、嗅覚による効果は絶大なものがものがある。
ロンドンにはそのプロダクツ・メーカーが数多くあり、その中でも「英国王室御用達」ともなれば、風格と品質を兼ね備えた素晴らしいものに出会える。

そのデパートのコーナーには、今まで本国でしか出会えなかった英国王室御用達の「PENHALIGON'S」や「CREED」、私の愛してやまないThe DORCHESTER(この話はいずれ書こう!)のアメニティ「FLORIS」、新しいところでは100%オーガニック素材をうたったホームプロダクトを提供する「NATURAL MAGIC」などのクラシック・キャンドルがほぼ全種類揃い、私はまるで宝の山をかき分けるように次から次へと香りを試して歩き回る。
どれもこれも吟味されたブレンドのセンスが感じられ、それを点した時の香りを想像するだけでうっとりする。
ようやく「PENHALIGON'S」のプロダクツから「Samarkand」(ジャスミン・リリー・サンダルウッド・ヴァニラ)、「Lavandula」(ラヴェンダー)、そして「Lily of the valley」(スズラン・ベルガモット・レモン・ゼラニウム他)の3つを選び出す。
パッケージもそれぞれに重厚で美しい。

「Lily of the valley」は「谷間の百合」とでも訳すのかと思って帰宅して辞書を引くと「スズラン」であることが判る。自分の無知を恥じ、スズランの香りに思いを馳せる。

男女雇用機会均等法など無かった時代。
「女の特権はメシの種にならない学問ができることだ。」と今では大失言と取られかねない父の言葉を真に受けて大学に入った私をデパートへ連れて行き、父が買ってくれた初めての香水はスズランの香りの「ディオリッシモ」だった。
身体に香りをまとうことをそこで初めて厳格な父に許された日だった。

意味を知らなかった私の元へやってきた「Lily of the valley」。
バスルームで芳香を溢れさせる小さな炎の中に、大人になりかけのあの時の私がいる。


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