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クリニック、アロマテラピーの限界 [フローラル]

「私ってこんなにいくじなしだったんですね・・・・」
そう言って彼女は静かに涙で枕を濡らした。
アロマテラピーの限界はここにあったのだろうか。
私はかける言葉を失っていた。

彼女はマタニティのクライアントさんの中では、群を抜いて通った回数が多い方だった。
私が乏しい知恵を振り絞ってするアドバイスもよく受け入れてくださり、ホームケアも熱心に行われているようだった。
知的でもの静かで決して感情を露にすることなどないような彼女が、分娩のために選び出したのは、ローズ・アッター(Indian Rose attar:Rosa damascena)。
ローズにサンダルウッドがブレンドされた崇高な香りは、彼女そのものだった。

「これが最後のトリートメントでしょうか。ちょっと寂しい気がします」
と言いながら行った、分娩直前の施術前後の血圧がいつもよりかなり高いのと足のむくみが気になり、彼女を送り出してから夫にカルテを見せて判断を仰いだ。
血圧の測定値を見た夫の顔色が変わった。
即、入院だった。

陣痛を誘発する点滴が投与され始め、普通ならどんなに長くても1〜2日で分娩に至るはずなのに、彼女の陣痛は一向に強まる気配がなかった。
それでも彼女は弱音を吐かず、その緊張に耐え、無駄に騒ぐこともなかった。

毎日、仕事の合間にLDRの彼女を見舞い、仙骨周りをマッサージしたりしたが、進行が加速することは無く、4日めの朝、彼女の目からその涙がこぼれた。
緊張の糸がぷっつりと切れたのだろうか。
私は点滴の痕が痛々しい彼女の腕を、ただマッサージするしかなかった。
私のアロマテラピーは、人体の生理的、医学的な厳然たる事実の前に屈したように思えた。

緊急の帝王切開が行われ、30分ほどで可愛らしい女の子が彼女の腕の中に抱かれた。
彼女が自分の力で生み出そうと4日間もがんばったことを、きっとこの子は知っている、と思った。

医療とアロマテラピーの位置をいつも考える。
日進月歩の進化を続ける現代医療に比べ、医学的にはアロマテラピーは未だ魔女の鍋の中からそう変わってはいない。
身体へ、と限って言えば、アロマテラピーの医療的価値は予防と未病という段階に限られると言ってもいいだろう。

では、医療においてアロマテラピーの果たしうる役目は何なのか。
その答えは、今、新米ママとして輝くような希望の真ん中にいる彼女が知っているのかもしれない。
















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