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クリニック、夫の背中 [クリニック・シンドローム]

限りなく明日に近い今日。
(つまり0時まであと数分)

電話が鳴る。
No.ディスプレイはクリニック。

嫌な予感がする。

受話器の向こうのNナースの息が大きくぜいぜいと拡張されている。

早寝の夫が飛び起きて来て受話器を奪うように代わる。

見ていたTVの音を絞り、夫の顔色を伺う。

「あ、オペね」
なんぞと気楽に言って仕度を整え始めることを願うが(普通の帝王切開でも当直だけに任せることは無いので)、事情を聞いている夫の声がみるみる緊張感で固くなっていくのが判る。

血栓性肺塞栓の疑い。
エコノミー症候群と同じ。長く同じ姿勢で安静にしていた産婦さん(切迫早産、帝王切開などで)に起こり易い症状だ。
それが懸念される場合は必ず事前に対策を講じるが、それでも100%避けられることは無い。

夫は降り始めた雨の中を飛び出していく。
もう患者様自身は搬送されたが、ご家族への説明のためだ。

開業して10年。
病状はさまざまだが、夫のこんな背中を見送る夜が幾夜あったろう。
夫がご家族に罵倒されるのも、カーテンの影で何度聞いたことだろう。

お産は安全ではない。
精一杯やっているのに、急変は必ずある。

1000人の患者様に「先生、ありがとう!」と出産の喜びを贈られる中に、不慮の結果を突きつけられる1人が存在し、その無念や怒りを夫は全身で受け止める。
夫の中で、その1人への己の無力さが1000人の祝福に勝ってしまった時、彼は産科医を辞めるのだろうと思う。

電話を受け、真っ暗な道路へ飛び出していく夫の背中を見送るたびに、それが今日なのか、といつも思う。

P1030978.JPG







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コメント 2

日和ママ

こんにちは!
先日はとろけるような心地よいトリートメントありがとうございました!
 (鼻水が出たのはそのせい?!なんて・・・)
川村さんもありがとうございました!!

日和も今日で9ヶ月。
月日が経つのは本当に早いものです。
今日のブログを見て改めて自分の出産の時のことを思い出しました。

産科医とは生命誕生と数々との危険とのまさに両極端なお仕事。
日々の心労は私たちの想像をはるかに超えたものだと思います。
それを見守る家族も同じ・・・
そして追い討ちをかけるように産科医不足のニュース・・・
改善に全力をつくしてね、麻生さんと願わずにはいられません。

院長先生のほっそりした横顔にこっそりエールを送ります。
by 日和ママ (2009-03-11 11:04) 

mana

日和ママさん、おはようございます!

いつも応援ありがとうございます。
院長にも伝えます。

麻生さんが何もしてくれなくても(笑)、日和ママさんのような患者様がいてくださる限り、院長は白衣を脱がないと思います。

また遊びにいらしてくださいね。
by mana (2009-03-12 08:26) 

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