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日立大沼町、『おひとりさまの老後』 [フレグランス・ストーリー]

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関東一円に降った土砂降りの雨に遮られていた記憶が、その角に来ると一気にほぐれたように蘇る。
ここを曲がって、坂を下りて・・・

小さい山門の前で、叔母は杖にすがりながら私たちを待っていてくれる。
雨がその肩を容赦なく叩いているのを、まるで気付くこともないかのように。

母より3歳年下の久子叔母ちゃんは、若い頃結婚に破れ、以来ずっと独身を通した。
一人で生きて行くためにお茶とお花を習得して自宅で教えていたこの叔母に、私は可愛がってもらい、小さな頃から一人で1時間近くバスに乗ってよくこの家を訪れた。

叔母以外、誰もいないこの家で私は自由に遊び、叔母と買い物に行って一緒にご飯を作り、叔母とお風呂に入り、叔母と並んで寝た。

大学に入って家庭にごたごたがあった時も、東京から帰って自宅ではなくこの家に泊めてもらった。

結婚が決まった時に、やっぱり一人でこの家に泊めてもらい、枕を並べて叔母といろいろな話しをした。
叔母は私を行きつけの呉服屋さんに連れて行き、結婚祝いに草木染めの着物を作ってくれた。
それが、私がこの家を訪れた最後だった。

叔母は10年前に大腸がんを患い、それをきっかけに母達に勧められた施設に一時身を置いたが、1年ほどでそこを「脱走」した、と憤った母から聞いた時は、ああ、叔母ちゃんらしいなあと愉快だった。

その家に戻った叔母は、身辺整理をしつつ、大量の着物と帯を私に譲るために送って来たことは前に書いた通りだ。
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一枚、一枚丁寧に特徴が書き込まれたたとう紙に、独り身を通した叔母の寂しさと、ようやく着物の行き場を見つけた安堵感が伝わって来た。

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秋に両親を埼玉に引き取ることになり、お互い足腰が弱って会えなくなっていた母と叔母を会わせるため、懐かしい家を訪ねる。

叔母は姉である母が娘に引き取られていくのを、どんな思いで独り身の自分と重ね合わせるのだろう。

「叔母ちゃん、困ったときは私に言って」と喉まで出かかった言葉を飲み込む。
父と母の世話だけで精一杯の私に、いったい何が出来るというのか。
無責任な言葉をかけてはいけないのだ。

施設に頼らず一人で生きて行くと覚悟を決めた叔母の目は、狼狽している私に「何もかもわかっているから心配しないで」と語っている。

そうだ。
彼女はずっと一人で生きてきたんだ。

叔母ちゃん、元気でね。
何とかしてまた来るから。













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