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丸の内、掌の桜 [フレグランス・ストーリー]

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「私だってお祝いしたいわよ」

メグ様ではなく、義母からの電話である。

結婚30年がそんなにめでたいのか私には判らないが、義父が結婚39年8ヶ月め(よく覚えてんなあ、彼女は!)で逝ったから、アナタたちも40th Anniversaryは無いかもしれない、というのが彼女の言い分である。

「はー、そうですね・・・・・」と、そこで不肖の息子とヨメは、御年78歳の義母に、丸の内「グリルうかい」でご馳走してもらうことになる。
うかい亭本家のある八王子在住の義母には、馴染み易いかとセレクトしてみた店だ。

3月下旬とは思えない身体の芯まで凍るような日曜。
義母を待たせて凍死でもされたら大変と、大急ぎで家を出たため、アイメイクをすっかり忘れて変な顔で電車に乗ってしまう。

その甲斐あって丸の内ブリックスクエアには待ち合わせ30分前に着いてしまい、大好きな『PASS THE BATON』に夫を連れ込む。
ちょっとアンティーク風なおもしろい雑貨が、狭い店に詰まっている。
http://news.madamefigaro.jp/culture/pass-the-baton.html

そこで夫の目に留まったのは、お茶碗ぐらいの鉢に生けられた、洋風盆栽の数々。
びっくりするような値段のものを平気で買うヒトだが、この2000円弱のものを買うのに、さんざん迷われていらっしゃる。

よっしゃ!即決買いは女の特技である。

「欲しいの?じゃ、買うわよ!」
と彼の決断力不足にブチ切れてレジへ持って行こうとすると、
「いや、待て」
と言う。

結局何も買わずに店を出て、待ち合わせの店へ行くと、義母既に到着。

6時待ち合わせなのに、4時半には到着され、「その辺を見歩いていたら、こんなカワイイもの見つけたの」と差し出されたのは、まさに夫が迷っていたそれ
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旭山桜とタグに名前が入っており、苔のグリーンと相まって、その小さな空間の中に春が詰まっているようだ。

いやー、この年になっても息子の欲しいものが判るってすごいなー。(単なる偶然と片付けるにはデキ過ぎである)

ブリックスクエアの中庭が見渡せる店内は、八王子の本家「うかい亭」よりもっとカジュアルで、目の前で肉を焼くわけではなく、フレンチのコースのように一皿ずつサーブされる。
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この人を母と呼ぶようになって30年。
今日はそのアニバーサリーでもある。

いい思い出も嫌なこともあったけど、この人はこの人なりに、一所懸命義父に仕えることが自分の天命と固く信じ、天璋院篤姫のような生き方を精一杯してきたのだと思う。
私のように、自分の勉強や旅行に夢中になるという発想はなく、彼女の唯一の誇りは夫と息子のために費やした過去だけである。

3時間、シャンパンと特別美味しいムルソーを空け、他愛の無い話しに大笑いしてお開き。

彼女をタクシーまで送り、そして、夫の腕の中に残された小さな桜。
彼はきっとその蕾の重みを感じているのだと思う。
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