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自宅、1週間 [フレグランス・ストーリー]

ここで水面に顔を出したら負けだ。

全身にのしかかる重たい水圧の中を、がむしゃらに前へ前へと掻き進む。
潜水時のあの感覚にも似た1週間であった。

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まるでこのために咲いたかのような庭のアナベルで棺を覆うことだけが、母が私に許した最後の所作であった。
忙しいのだから老いた自分には関わるなと、薄れゆく感覚の中でさえ頑固にそれだけは言い通した母らしく、その旅立ちを誰にも告げず、誰をも煩わせず、あの日の早朝一人でひっそりと逝ってしまった。

我慢強くこつこつと努力を重ねていくことに至上の喜びを見いだし、その結果で人生を彩っていく人だったので、それを慕う多くの知人、教え子達に恵まれた。
しかし2年半前体調を崩してから、それまで続けて来た俳句や聖書の勉強を止め、知人との連絡も一切絶って自ら父を残して施設に入居し、身の終い方の手本を私に見せてくれた。

そしてこの最後とは、あまりに出来過ぎじゃないの、おかあさん。

地上でただ一人、私を100%肯定してくれた存在を失った現実との戦いが、これから本当に始まるのだと思う。



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