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新潟、5000分の1 [クリニック・シンドローム]

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あおちゃんは生まれて44日め。
初めて自分の家のドアをくぐった。
部屋にはヴィアロームのFruitsが香っていた。

あおちゃんがNICUに入った、と長男から電話があったのは、12月20日。
あおちゃん誕生に沸いた日からたった4日後のことだ。

冷静に、来るべきものが来た、と思う自分に驚く。

年間800例近くもお産を扱えば、出産の喜びもつかの間、ベビーに先天性の異常が見つかって失望の奈落に落とされる親達を、数限りなく見ている。
それがそれほど希有な確率ではないので、もしかして・・・という思いは、産科医療に従事する夫にも傍で見ている私にも、もちろん長男達にも心の隅にほんのちょっと存在していたことは間違いが無い。

しかし、まさかその確率が我が身に当たるはずが無い、という思いも、また同時に我々の別の心の隅に確実に存在していた。

しかし、その「くじ」に当たってしまう子は0ではない限り必ず居り、神様はその何千分の一の「くじ」をあおちゃんに当てたのだ。

ヒルシュスプルング病。
あおちゃんに下されたのはそんな聞いたことの無い名前の病気だ。

先天的に腸の神経細胞が欠損し自力排泄が不可能となるこの病気は、細胞の欠損部分を切除して正常な部分を繋ぎ合わせる根治手術しか、治癒の方法は無い。
その手術さえままならないケースもあり、何年も人工肛門をつけることになることもある。
5000人に1人というのが、この病気の確率だ。

何日も何日もネットの森を彷徨い、夫と議論し、そして泣き続ける。
いつ、どこでその手術をするかが、その後の人生のQOLを大きく変えると考えられる。

クリスマスも正月も、先の見えない濃い霧の中に沈んで過ぎる。
外面ははしゃいでみせていたが、心は真っ暗。
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編み物上手なスタッフのプレゼントも、「これをあおちゃんが履く日は来るのだろうか」と思ってまた涙が出る。

年末、夫とNICUのあおちゃんを見舞う。
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その柔らかく必死で生きている小さな命を、ガラス越しに心のなかで抱く夫と息子。
それはあまりにも悲しい対面だ。

1月9日。
自分の勤務する新潟市民病院の小児外科にすべてを託すと決心した長男の意向を汲み、ヒルシュの診断のための細胞の採取と、引き続いて根治手術が行われる。
5時間の手術を、生後24日のちっちゃなあおちゃんは耐えぬく。
心配された類縁疾患ではなく、合併症も今のところ見つからないとのことで、不幸の中では最良の結果となる。
神経細胞の欠損部分が、肛門のすぐ上の数センチだったことも幸いした。

1月22日に「NICUを卒業しました!」とおヨメさんからメールが来る。
ほっとしたのもつかの間、小児病棟の24時間看護態勢に今度は気丈なおヨメさんの疲労が蓄積され、応援に行く。

そして退院。
用事がある私に変わって、夫が手伝いに行く。
一転、患者の身内という立場になって、我がクリニックでも必ずや見つかるであろう先天性異常という確率性の疾患に立ち会う彼は、何を感じ、何を思ったのだろうか。

普通の子より1ヶ月半遅れて、自宅での保育が始まる。

当直のあるパパの家庭の宿命は、ママが初めての育児に孤軍奮闘しなければならないことだ。
我が家の20数年前と同じだ。

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七変化。

すっかり「普通の」子になったように見えるあおちゃんだが、腸が未発達なので3歳ぐらいまではお腹の調子に気を遣う。
あおちゃんの本当の戦いはこれから始まるのかも知れない。

「そこは必ず私が訓練して追いつかせます!」
ナースだったおヨメさんの心強い言葉に送られ、小さなアパートにようやくぎゅうぎゅう詰めになった幸せを感じて新潟を後にする。

先天性異常。

それは誰のせいでもない。
ただひたすら「確率」だけの問題だ。

ものすごい数のDNAが相手のこの解明と回避は、不可能であろうと夫は言う。

それでも不幸なDNA 同士が出会わぬように解明が進み、我々が今回流したと同じ涙の量が減っていくことを、心から願わずにはいられない。

これまでのあおちゃんに関する記述が、何となく奥歯にものが挟まったような、わざと盛り上がっているような不自然さがあったのは、以上のような事情のためとご理解いただきたい。


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コメント 4

朋子

あおちゃん、そんなことがあったんですね。。。

本当に大変なご心配をされたと、お察しします。

緊張感のある内容で読みながら
胸がどきどきしてしまいました。

あおちゃんのご成長、影ながら応援します!
by 朋子 (2009-02-03 11:04) 

マー

はじめまして。

いつもmanaさんのすてきライフなこのブログが好きで
よく遊びに来ています。

あおちゃんガンバっていたんですね。
あおちゃんのまわりを家族が温かい眼差しで見守りながら
優しくサポートする姿、そして強い意志を感じつつ
鼻の奥やまぶたの奥がツンとしながら読ませていただきました。

あおちゃんの健やかなる成長を心よりお祈りいたします。
by マー (2009-02-03 16:19) 

mana

マーさん、はじめまして。

ご来訪、ありがとうございます。

いつも自分の足跡を何かに残しておきたいという思いで、このブログを書いています。

スキップを踏んでいる時も、前へ進めない時もありますが、どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

あおちゃんへの応援、心から感謝いたします。



by mana (2009-02-03 22:00) 

mana

朋子さん、こんばんは。

時間って本当に傷口を癒してくれるものですね。

もがくような毎日も過ぎ去れば、あとは与えられた人生にどのように向き合うかを考えるのみです。

あおちゃんに、我々祖父母がなし得ることは何か。
熟考してあおちゃんに接していきたいと思っています。

いつも応援ありがとうございます。
by mana (2009-02-03 22:09) 

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