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自宅、史上最強のオペラ [マイハーベスト]

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トリミングに行って来たミナサン(トイプー3匹)が、アジサイのクリップを付けてもらって帰って来た。
犬のトリミングという習慣的な仕事の中に、季節感という小さなサービスを盛り込む配慮が光る。

2、3日前、新聞の片隅に小さなお詫び記事を見つける。

今月から始まる、世界で最もゴージャスな演出と配役で知られるメトロポリタン歌劇場(以下メット)の日本公演にて、指揮者とほとんどの主役が来日を取りやめ、代役が当てられることへの謝罪広告である。
HPでは来日しない理由は体調不良とされており、そんなに何人も一度に病気になるか?とツッコミを入れたくなるが、新聞には「原発事情を考慮して」と明確に記載されている。

日本における海外劇場オペラ公演には、ワインの出来のように当たり年とそうでない年があり、主要な公演が1件も無かった去年に比べ、今年は当たり年と言われていた。

その先陣を切るのが5年ぶりの来日となるこのメットだったので、半年前に奮発した2枚のS席チケットを握りしめて再来週の公演を心待ちにしていたのに、「ああやっぱり・・・」と落胆する。

震災後、多分我々が一番後回しにしているものといえばアミューズメントとかエンターテイメントなのだろうけれど、その枯渇感は日に日に増すばかりであり、嫌が応にも期待は膨らみきっていたんである。

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6月の公演が近づき、頭がメット一色になっていた私が先週から夢中で読み始めたのが、この『史上最強のオペラ(THE TOUGHEST SHOW ON EARTH)』(ジョセフ・ヴォルピー著/佐藤真理子翻訳監修/インプレザリオ出版)。

一介の大道具の見習い大工から世界のメットの総支配人に登り詰めたジョセフ・ヴォルピーが、政治・経済・階級が複雑に絡み合ったこの巨大組織で体現したアメリカン・ドリームは、まさにそれ自体が壮大なオペラのストーリーのようである。

前半は、その彼の、偏見との戦いがつぶさに語られる。

莫大な寄付金が運営資金の大半を占めるメットにおいては、WASPの機嫌を損なうのが最も危険な行為であり、劇場で最も権威ある総支配人に、イタリア移民で大道具係出身のヴォルピーを抜擢することは、彼が実際には最適任者だと認めていても、メットは最後までためらい、「総監督」などという中途半端な名称を与えてお茶を濁したりする。

思うに、そのような屈辱にも耐えてトップに登り詰めた彼の中には、大道具が形作る舞台演出こそがオペラを成功に導く大きな鍵であり、何万回という舞台を裏から見尽くして来た経験は、ハーバード卒の経歴よりメットには必要であるという代え難い自負があったのだと思う。

確かにこれまで観た舞台でも、ステージからこぼれおちそうな人員をエジプトの宮殿に配したフランコ・ゼフィレッリの『アイーダ』や、幾重にも透ける布で中国の情景を表現したチャン・イーモウの『トゥーランドット』の演出は言いようが無いほど素晴らしく、トゥーランドット姫が(体重の増え過ぎ?で)車椅子姿だったという大ガッカリをも救ったほどだ。

後半は期待通り、オペラ界のキラ星たちとの交流がたっぷり。
オペラファンなら飛びつくこと間違いなしの裏話が独特の口調で語られる。

巨匠カラヤンが舞台の演技に満足できず、オーケストラピットを飛び出て、自らステージ上で宙づりになってみた話や、マリア・カラスはじめ歴代のディーバの数々の我がままな振る舞い。

特に印象に残ったのは、日本で人気のあったキャスリーン・バトルとの「バトル」。

リハーサルすっぽかしなどは当たり前。
共演者には嫌がらせ、指揮者にまで食って掛かる彼女の行為にとうとう堪忍袋の緒が切れたヴォルピーは、公演半ばで降板させ、契約を解除する決心を固める。

メットの看板ディーバを興行の最中で解雇することへの波紋の大きさ、その後に公演を予定している日本では彼女に絶大な人気があることを憂慮し、周りは必死に翻意させようとする。

しかし、ヴォルピーの決心は変わらない。

そして広報部長を呼びつけて言う。
「『連隊の娘』にキャスリーン・バトルは出演しない。新聞記事にはよくある『体調がすぐれないため』などというよくある謝罪ではなく、真実を書いてくれ」

ヴォルピーはすでに総支配人ではないけれど、彼のこの主義は、今回のメット日本公演にも引き継がれていると信じたい。

新聞の「原発事情を考慮して」はストレートで真実であろうと、少なくとも私は納得したのだから。

言った言わないの茶番と汚染水を垂れ流すがままにしている政治家たち、よく見、聞くがいい。

世界一安全で清潔な国だった日本は、たった3ヶ月で、世界のアーティストたちが敬遠する汚染大国になってしまったという事実を。











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