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軽井沢、シッコ [マイハーベスト]

施設からのデイリー・リポートで、父がまた食事と入浴を拒否しているというので、彼の好きそうなものを見繕って訪問することにする。

朝8時に車で家を出発、午前中は白金三光町の聖心でJohnny(がたぶん渋々引き受けている)のグループレッスンに参加する。
レッスン後すぐに首都高に飛び乗り、そこから常磐道に出てひたすら北上。

父がすねている原因は、向精神薬との相互作用のため大好きなブランデーを取り上げられたせいと分かっているので、2、3本を持参してナースステーションに預け、管理付き晩酌の許可をお願いする。
ブランデー獲得に成功した父は、持っていったできたてのあんパンとルビーのような佐藤錦を次々に頬張り、お風呂もせめて3日に一度は入ると約束した。

この人、北朝鮮だなと思う。

父の施設訪問の帰りには、彼がとうに放り投げてしまった母の墓所を、いつも一人で訪ねる。
IMG_1531.jpg

湖面が見下ろせる斜面に立つ簡素な墓石の下の母は、北朝鮮父に支配され続けた人生を閉じて、今はきっと安らかだろう。
ようやくこの頃そう思える。

日が西に傾きだしたのを合図に、再び常磐道にのり、外環から関越に入って上信越に分かれて碓氷峠を越えて軽井沢の山荘に到着。(北関東道を走った方がやや短いらしいが、道が単調で慣れないのでこちらを選択)
日曜、山荘で用事があったので無理矢理走破してきたが、水戸→軽井沢間だけで走行距離250km。
朝家を出てからトータルでは400kmくらいか。
愛車は疲れも見せず、きつい坂道をぐんぐん他車を追い抜いて登り、たくましい。

犬たちを連れて出るシチュエーションではなかったので、夫が家でミナサン(トイプー3匹)を見てくれることになっており、考えてみれば初めてのミナサンのいないたった一人の軽井沢である。
IMG_1533.jpg

一人の長い夜、マイケル・ムーア監督の「シッコ」を観る。
sicko.png

西側先進国の中で唯一国民皆保険の無いアメリカの医療保険制度への抗議を、ユーモアを交えたドキュメンタリーに仕立てたこの映画は、2007年の公開時、現地アメリカで同時公開の「ダイハード4」より遥かに多くの観客を集め、注目を浴びた。

アメリカという全世界を席巻してきたダントツの先進国が公的な保険制度を持たず、「医療の沙汰も金次第」であることは我々も何となく知っている。
フランス国籍を持つ息子の友人Phillipeが、深刻な病状にあるお父上がアメリカで受けている劣悪な医療制度に心底不満をぶちまけていたのも聞いている。

しかし、ここまでとは思わなかった、というのが正直な感想である。

特に自前で医療費が払えなくなった入院患者を、病院側が無理矢理タクシーに乗せて連れ出し、路上に「捨てる」現場を捕らえた映像はショックだ。

我々日本人が当たり前のように持っている小さな一枚の健康保険証カードを持たないアメリカ人は5000万人。
彼らは自分の命が財布の中身次第の長さだと知っている。

公的な保険が無いので、高額な医療費が必要な時のために加入しておかなければならない民間の保険も、まず入る条件は厳しく、運良く加入できたとしても実際に実行される時には審査でかなりの数が拒否される。

こうして医療から遠ざけられた人数は、先進国の中で乳児生存率、平均寿命とも最低という順位に反映されている。

比較されるフランスやイギリスの公的医療制度の優秀さは驚くばかりだが、その陰の高額な税金などには触れられていないことはややアンフェアな気も。
しかし医療に関与するものの端くれとしてその国々の制度は見習うべきと考える。

独裁者の統治する貧しい国とされる隣国キューバの皆保険制度のもとに、アメリカの医療制度に苦しむ人々を連れてマイケル・ムーア自身が乗り込む場面は、現実をやや誇張しながらユーモラスに仕上がっている。

しかし、彼も何度も独白を繰り返しているように、他国の優秀な部分をいつでも受け入れてきたアメリカがなぜ皆保険制度を導入できないのか、その見えない巨大な力関係の複雑さを思うし、TPP参加によってこんな医療制度が日本に流れ込んでくることになるのだろうかと大いに危惧もする。

しかし一方、バリバリ反政府のこんな映画がなんの規制も受けず、市中に公開されて絶賛される自由を保障されているのも、またアメリカなんだと思う。


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