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自宅、わが盲想 [マイハーベスト]

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あまりの暑さに涼しい室内へ迷い込んだのだろうか、万策尽き果てたdragonfly。
一人ぼっちで閉じる生涯の最後が、せめて涼やかで平安であったと思いたい。

私は本に飢えてきた。

先月は卵子老化の本を3冊読んだが、これはこれですごく現実が重く、読書の世界へ心を解き放つ快感とはまた異質なものであった。

高校教師の仕事と家庭を誰の助けも借りずに切り回していた母が、よく、「今から布団に入って眠るだけ、という時が人生で一番幸せ」と言っていたように、私も、一日のすべきことをすべて終えてベッドの中で好きな本を読むのが人生で一番幸せな時間だ。
しかし最近行事が多く、暑さの疲れも手伝って、本を開いた途端というか、枕に頭を乗せた一分後には眠りに落ちるという日々を繰り返していた。

一晩か二晩で読める気持ちが明るくなる本はないか、と探して、大正解な本に出会った。

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「わが盲想」(モハメド・オマル・アブディン著/ポプラ社)

著者のアブディン君(彼の国スーダンではファミリーネームが存在しないため、分かり易く最後の名を使うことにしたのだそうだ。オマルでは子どもの頃にお世話になったアレを想像するしね、と彼自身の解説有り)は、19歳でアフリカから一人で日本にやってきた。

スーダンからの留学生は珍しくはあるが、それだけなら特別琴線に触れることもないだろう。

驚くべきは、ほとんどモノが見えない進行性の網膜色素変性症という病気を持っており、初めての外国日本を、彼が最初から実際には全く視覚的に捕らえることが出来ていないということだ。
その日本を、音声読み上げソフトを組み込んだPCを使い、自分の日本語で表現していく。
ゆえに、妄想ではなく、「盲想」なのである。

類い稀な努力(そんなことは一言も書いていないが)を重ねて、二重三重の壁をクリアーして書かれたはずなのに、文章はあくまで軽快、得意のジャパニーズオヤジギャグで彩られ、一気に最後まで読ませる筆致にも勢いがある。

視覚を除いた「四感」で彼が捕らえた日本は、冷静で本質的だ。

動詞と形容詞の活用の不規則さに苦しむところ。
生粋の日本人でさえも的確に使えている人は少なかろうと思う文法の問題。

非漢字圏から来た人々が必ずぶつかる同音異義語の存在。
漢字を実際に見ることが出来る我々でも間違い易いが、漢字の形を見ることが出来ない彼は、言葉遊びを使って楽しみながら壁を乗り越える。

せっかく4年間の履修チャンスがあるのに、最後の一年間は就活という同一魔法に取り憑かれて個性と学習を喪失していく大学生たち。

言論の自由が保障されている国に住みながら、政治の話しを面倒がって真剣に話そうとしない若者達。
民主主義と言論の自由の恩恵を、全く活用していない日本。

当初の目的であった鍼灸学校から自力で東京外語大の一般過程に入学し、晴眼者と同じ目線で直視した(・・というのだろうか?)日本感は、内戦続きで言論も行動も抑圧された祖国スーダンと比較して、鋭く、優しい。

よくある外国人から見たニッポンとはまたひと味もふた味も違う、爽やかな笑いに包まれる読後感は、偏に、その陰にあるマイノリティの壁を明るく打ち壊しつつ生きる才能と努力が、透けて見えるがゆえであろう。




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