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渋谷、リゴレット [マイハーベスト]

夫の車のスピーカーからいきなりショパンのノクターンが流れ出て来たのにはびっくりだ。

このヒトの車にサザン以外の音楽が積んであった試しが無い。
どんなに好きでもまあ、よく飽きないわ、と思っていたけど、それ以外の音楽を知らなかっただけのようだ。

私の車は狭くてミナサン(トイプー3匹)が酔ってしまい、ワンコ連れの軽井沢の行き帰りは夫の車を使うので、4時間の大渋滞の間中でも、隣で大イビキのダンナよりも(当然のように助手席にご着席だ)運転しながら延々と私はサザンを聞きこみ、血液の一部がサザン化してるくらいだ。

最近ピアノを始めて彼の周囲が少しずつ変化して来たのを感じる。
ピアノ曲が流れる夫の車は、私にはちょっと心地良い。
「ベートーベンは音楽の父、バッハは音楽の母」(そうだっけ?)と、絞り出した彼の小学生並みクラシック談義もちょっと笑えて心地良い。

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さて、前記で「左傾化」宣言して、その最たるものがドラムをおっ始めたことなんだが、これはこれで練習が楽しくて楽しくて、我が家のデシベル数はご近所限界に達しているのでそろそろ次の手を考えなくては。やっぱり、電子ドラムか。

一方、不思議なもので親に強要されている時はちっとも好きでなかったクラシックもこの年になるとしみじみいいもんだなあと思え、そんな中でイタリアオペラの総本山で、ヴェルディ劇場とまで評されるミラノスカラ座が4年ぶりに来日し、新演出版の「ファルスタッフ」と中期の名演出版「リゴレット」を上演するとあっては、これは黙ってはいられない。
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オペラは観たいけど、誰と一緒に行くかがこれほど面倒なパフォーマンスも無い。

芸術家系でも何でも無い私の周囲にそれほどオペラ好きの人間が見当たらないし、いい席だと5〜6万円という高額チケットなので気軽に誘うのもためらわれる。
音楽好きの次男が日本にいた時は、自分では買えないチケットなので誘えば必ずホイホイついて来たが、ベトナムへ行ってしまった。

オペラに誰と行くかという命題に関しては、作家の林真理子サンが週刊誌にやっぱりこのスカラ座公演に引っ掛けて同じような悩みを吐露しており、彼女は結局実の弟さんと行ったそうだ。

震災直後に、指揮者や主役達が来日を嫌がって大きな配役変更を余儀なくされたメットの公演を次男と観てから、そんなわけでオペラ鑑賞から遠ざかっていたが、誰と行くかなんて考えるより先に、行きたいものには一人で行けばいいのだ、という結論に達して1枚だけチケットを買ったんである。

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昼間の蒸し暑さが残ってはいるものの、夕暮れ時のNHKホールは、これからオペラを観るんだという華やいだ序章にふさわしいアプローチを提供してくれる。
バックに立ち上がった美しい尖塔を持つ名建築、丹下健三作国立代々木競技場の、今度のオリンピックにあたっての行く末はいかに。


中に入れば、海外のオペラハウスに比べて、その古さ、ダサさはぬぐいようもないが、オペラ好きのおじいちゃん、おばあちゃんが行き交うロビーでとりあえずお約束のシャンパン1杯を引っかけて、自分的高揚感を掻き立てて準備完了。
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序曲が終わり、城壁の背景がさっと上がると、思わず感嘆の声がもれそうな色の洪水たる宴会の場面である。

ああ、これだからイタリアオペラってやめられない。
歌もオーケストラももちろん素晴らしいんだが、この微に入り細に入った手抜きの無い美しい舞台芸術への入れ込みようは、シンプルでモダンなドイツオペラとは違って、さすがにファッションや芸術の先端を切って来た国として威信とプライドが違う。

この大掛かりでラグジュアリーな舞台をそのまま本国から運んで来るんだもの、チケットが高いわけである。

道化者リゴレットの最愛の娘ジルダが、よりにもよってリゴレットの雇い主で浮気者のマントヴァ公爵に心を奪われてしまう。
貴族の生活のだらしなさやそれに仕えなければならない我が身の悲運を嘆くリゴレットは、娘を弄んだ公爵殺害を殺し屋に依頼する。
ジルダは公爵の本性を知ってなお、愛する人の身代わりとなり、殺し屋の前に身を投じる。
公爵の遺体が入っているはずの革袋から、血に染まった瀕死の愛娘が現れ、悲嘆にくれるリゴレットの腕の中で彼が自分の命より大切にして来た小さな命は息絶える。

父親リゴレットの深い情愛が全編を包む。
観ながら、自分と父親の絆を思い起こす女性は私だけではなかろう。

当時の貴族社会の下敷きになった庶民の反抗は、ヴェルディのオペラには付き物だ。
名作は、それを生む背景の中に、当然の結果として生まれるものなのかもしれない。

女たらしのマントヴァ公爵の歌う名アリア、「女心の歌(La donna e mobile)」は往年のパヴァロッティの十八番でもある。




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