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軽井沢、マリー・アントワネット〜ファッションで世界を変えた女〜 [マイハーベスト]

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夫は軽井沢6:35始発の新幹線に飛び乗り、クリニックへ帰っていった。


昨日合流していた長男一家が帰り、孫達にもみくちゃにされた後の残りの一日を久しぶりで夫婦二人でゆっくり過ごそうと思っていたのに、かなわなかった。
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もちろん夫の休暇の間のバックアップは完璧に当直医を配置して整えて出てきたので、帰らなくても何とかなったはずなのだが、夫は自分の気持ちを抑えられず、山荘を後にしていった。
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数年前不適切な決算書を作成した会計事務所に信頼が置けなくなり、当該会計事務所と税務署を相手に、つい先日の、不本意であまりにも悔しい結果が出るまで、複雑で長く孤独な攻防の矢面に立つことになった。

これまで自分の生き方に迷っても、努力をすれば必ず克服できるという経験則で乗り越えられたのに、コトが法人という別人格を代表する立場で、自分の知識がほとんどゼロに近い分野でその道のエキスパートを相手に戦うことは、まるで碓氷名物の濃い山霧の中で錆びた剣を手探りで拾い、闇雲にふりまわすようなもので、所詮専門用語でねじ伏せられ、心理的物理的に大きな苦痛と損害を負うことになった。

夫が開業して16年。

こんなふうに自分のプライベートを捧げ尽くして仕事に従事している彼を一番身近で見ているからこそ、彼が医療に専念できるよう、経理、労務、その他の雑事は全部自分一人でやろうと思い、そういう体制を作ってきたが、今回はとことん心が折れた。

所詮他人には人ごとで、特にビジネスに関しては、いつも周囲を取り巻いている人間も自分の利益になるようにしか動かないから、親身にこちらの側に立ってアドバイスをしてくれる人が居ない。

この孤独感が一番身にしみた。


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満身創痍で逃げ込んだ山荘で読んだのは、自分とは比べようも無い世界のアイコンについての本。
自信を喪失した心に、それがそっと寄り添ってくれた気がしたのは、その孤独感に僅かな類似性を感じたからなんだろうか。


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「マリー・アントワネット〜ファッションで世界を変えた女〜」(石井美樹子/河出書房新書)

世紀の王妃マリー・アントワネットほど、様々な角度から検証され、題材にされ、言い表され、描き表された人物も少ないだろう。

「パンが無いならケーキをお食べ」

傲慢で浪費家、派手好きで勉強嫌いという輪郭ばかりが取沙汰されるアントワネットであるが、本著によれば、彼女はハプスブルグ家の「戦争は他の国に任せ、オーストリアよ、なんじは結婚して繁栄せよ」という家訓(考えてみればこれもすごいね!)にのっとって、財政破綻する寸前の大国フランスにわずか14歳で差し出された自分の境遇を素直に受け入れ、与えられた人生に忠実であろうとした、むしろひたむきで賢く、邪心を知らない女性であったようだ。

オーストリアからはまるでリモコンで繰るように、母である女帝マリア・テレジアが密偵を使って彼女の言動にいちいち指図を与えたが、それも素直に受け入れ、母の望みを実行しようと努力した。

7年間も夫婦の契りを結ぼうとしない愚鈍な夫に対しても、キレることなく励まし続け、最後には彼の愛を勝ち得て子孫繁栄にも貢献する。

彼女は明らかに夫の皇太子(後のフランス国王ルイ16世)より利発で才能もあったが、女性に政治を担う権限が与えられない時代ゆえ、彼女は陰謀渦巻く敵ばかりの巨大な社交界、ヴェルサイユ宮殿での自己確立として、ファッションとアクティビティに個性を映しとるしかなかったのだ。

彼女は自分の美しさと身分ゆえの影響力をよくわきまえ、見栄で固められたコルセットから女性を解放し、身ごもれないという偏見に鞭を当てて乗馬服で馬にまたがり、虚栄としきたりで膨らんだスカートを捨ててシミーズドレスを流行らせた。

考えぬいた自分のファッションが、翌日には誰かに真似されて消えていくことに気付き、独自のファッションブックを作成して、オリジナルは自分であることを証明したことなどは、現代の意匠パテントにも通じる才気を感じる。

国民が食べるものにも困っている中で、そのような豪奢なファッションに心血を注いでいたことは、後から見れば批判されるべきことではあろうが、彼女の周りには出世と勝ち馬に乗ろうとして、何も知らない彼女に様々な入れ知恵を授ける人々が群がっていたのだから、その人垣の隙間から庶民の生活を垣間みようとすることは、ほぼ不可能であったろうと思う。

彼女は誰かに頼りたかった。

わずか14歳で見知らぬフランスに輿入れし、何が正しいのか、どうするべきなのか、分かるはずも無い。
正当な生き方を教えてくれるのは一体誰なのだろう。

その真っ当な先導者がこのフランスにはいない、信じられるのは夫と子どもと共に断頭台へ上がる道を選んだ数人だけと気付いた時、マリー・アントワネットは敢然と頭を上げ、まっすぐ前を見つめる。

結局信頼して道を問えるのは、自分しかいない。
そのために自分は、賢くある努力をすべきだったのだ、と。

これが同時に、今の私の前へ進む結論でもある。





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