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軽井沢、彼方なる歌に耳を澄ませよ [マイハーベスト]

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例年のごとく、今年最後の連休に一人山荘終いに軽井沢へ出掛ける。

葉がすっかり落ちた森は、まるで心を洗い流したかのように明るくて、静か。

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夜は零下に冷え込む高原の晩秋。
二匹の毛並みが含む暖気が愛おしい。

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♪ブリザ〜ド、オ、ブリザード・・・・・

スノードームの中にちっちゃい吹雪を起こしては、パトラッシュを雪まみれにして遊ぶ。
もうすぐ軽井沢には本物がやってくる。



この人の冬の描写はすごい。
カナダ東端の島の冬を知らないから無責任に憧れる。

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「彼方なる歌に耳を澄ませよ」(アリステア・マクラウド著/中野恵津子訳/新潮クレストブックス)

以前、この短編の名手の「冬の犬」をここでご紹介したかと思うが、これは生涯16作品という彼の寡作群の中の唯一の長編だ。

「冬」と「犬」は彼のキーワードのようだ。

犬という動物は、やっぱり夏や春じゃなくて冬に引き立つ。
フランダースの犬にしても南極物語(これは実話だが)にしても、厳しい自然の寒さと仕打ちに負けずに人間に寄り添おうとする健気さが犬の体温を通して実際の温もりとなり、我々の心を暖める。

(ああ、洋服着て毛布にくるまっているウチの駄犬たち・・・)

本著においても、その体温は余すところなく描かれる。

1700年代スコットランドから大西洋を渡って未開のカナダの孤島へ入植せんとする主人に置き去りにされた一匹の犬は、冬の海に飛び込み移民船の後を追う。
その姿にたまらなくなった主人は犬を船に引き上げ、置いてきたことを詫び、共にカナダのケープ・ブレトン島に渡る。

犬は何が待ち受けているかわからない入植地での険しい生活に寄り添い、開墾の歴史を共有し、子孫へのバトンをも自らの家系をもって人間と共有することになる。

本著は犬の話しではもちろんなく、その最初のハイランダー(スコットランド高地人)からその後何代にも渡って語り継がれた移民生活や一族の歴史を、末裔である「私」が回顧していく展開なのだが、彼ら一族の犬もまた、この最初に船に引き上げられた犬を祖として、重要な役割を果たしていく。

「私」の兄と両親がブリザードの日に渡っていた海の氷の下に落ちた時も、その悲劇を知らせにきたのはあの犬の子孫で、連れ戻されても連れ戻されても飼い主が沈んだ海を氷に乗って渡ろうとする。

「私」の詳しい生い立ちや感情は改めて描かれないが、幼い頃こうして両親を失った「私」が、双子の妹と共に父方の「おじいちゃん」と「おばあちゃん」に大事に育てられ、荷をひく馬に糸を結びつけて自分の歯を抜くような荒っぽい労働者となった4人の兄たちとは違った教育を受けて、今は裕福な顧客を沢山持つ思慮深い歯科医に成長したことが読者には次第に分かってくる。

荒々しい風景がまざまざと目に焼き付くような描写を背景にして、開拓の根を下ろした一族の生き様が時には鋭く、時にはユーモアを持って語られ、長いページ数を飽きさせない。

ブリザードの中に響き来るケルトの歌声。
地に根付いて生きることの重厚感。
一族間の濃厚な絆の明と暗。

がっしりと重量のあるスコットランドの毛織物のようなテクスチャーを読んで感じ取りたい、格別な冬のための長編である。


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テノリ

はじめまして。バカラのオーナメントの飾り付けに悩んで検索していたらこちらのブログにたどりつきました。すてきなブログで、釘付けになってしまいました。特にインテリアのセンスががとっても好みです!これからも立ち寄らせていただきます!
by テノリ (2014-12-01 14:19) 

mana

テノリ様、初めまして。
他愛のない日々ブログを書き綴ってもう6年以上になります。
バカラのオーナメントで素敵なクリスマスをお過ごしくださいませ。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
by mana (2014-12-01 15:48) 

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