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軽井沢、火花 [マイハーベスト]

この著者のことは、何となく知っていた。
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TVはほとんど観ないので、この50インチ箱の中でちっさく人生をまとめて大げさに展開させる連ドラというものにも、そこで蠢いている裾野の限りなく広い仮面舞踏会のような芸能界というものにもまるで疎い。

なのに、なぜこの又吉さんという人を覚えていたかというと、夫が観ていた名残の番組が無意味に流れ出ていた時に、確かあまり器量のよくない芸人さんたちが集められて「自分が似ていると言われた(人の)中で一番酷いと思ったのは」という質問への回答場面で(この質問もずいぶんアコギな感じだが)、この人は「排水口」と言い、思わずあの髪の毛を絡めとるための形状を思い出して笑ってしまったことがあるからだ。

彼のこの回答は、既成概念をぶっ壊すというお笑いの大原則をちゃんと捕まえているような気がしたし、屈辱を受ける(=名を挙げられる)人を作らないという意味でも、センスがある人なんだなあと思った記憶がある。

その彼が本を上梓し、しかも文芸誌に載るほどの出来映えだというので、一躍露出が見栄えのいい相方と逆転したというのは聞いていた。
彼が無類の本好きだということも相まって、ちょっと文学的なメディア露出も増えたようだ。

それでもなんだかなあ、という思いがあり、それはどうしてかというと、これまでもタレント本はいっぱいあって書店にコーナーが出来るほどだが、みんなゴーストライターが書いた取るに足らないものだったし、刹那的な言葉を出しては消すことで成り立っている彼のお笑いというホームグラウンドは、文学の熟成のスパンとは真逆の位置にあるような気がして、その本を手に取ることは無かった。

来荘予定だった孫達が突然の発熱とかで襲撃中止の連絡。
思いがけなく、のんびりとした軽井沢滞在となる。
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何年かぶりでスタバじゃないコーヒー店にも入ってみる。
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ごった返す旧軽銀座で、2000円超のケーキセットはさすがに敬遠されるのか、ここだけは昭和で時が止まったような薄暗がりが鎮座している。

激混み期間で新作はほとんど貸し切られ状態のレンタルビデオ店で「シカゴ」(1937年アメリカ。原題:In Old Chicago。1871年のシカゴ大火がクライマックスとなるスペクタクル)など借りるついでに、軽く読めるかと、カウンター前に積んであったこの話題本もバスケットに入れてみる。
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「火花」(又吉直樹著/文藝春秋)

一晩あれば十分読み終えることの出来る気軽な尺。

週刊誌の書評欄で絶賛されていた書き出しは、本好きが書き手に回った時にありがちな、肩に力入り過ぎ状態で読みにくい。
・・・と思う間もなく、力尽きたのか次第に文章は平坦に。

ストーリーは特筆すべきものも無く、文章もやはり彼のポジションがゆえのエクスキューズ付きの上手さと言うべきだろう。

それでも単純に面白がれるのは、やはり芸人の感覚を文学に持ち込んだことで、あのステージ上の丁々発止のリズムが、音としては無拍であるはずの文章の中に生き生きと感じられることか。

既成の概念をぶち壊すための言葉選びには独特のセンスと世界観が必要なのだろうし、その感覚を持った人がお笑い芸人として成功し、そういう人はまた同じ言葉を操る文学の世界にも門戸を開かれているのかも知れないと、これまでとは違う認識を持ったりもする。

私が著者を認識するきっかけともなった「排水口」のエピソードが、ちょっと違う形でだが、某所に登場する。

タイトル「火花」は、主人公のコンビ名スパークスからか。

彼の著作活動が、一時のマスコミの絶賛の嵐から飛び出したスパークだけで終わらず、異業界を繋ぐ息の長い灯火となることを願う。

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我が別荘を10年以上警備中のコンドル。

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