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自宅、みんな彗星を見ていた [マイハーベスト]

おおっ!

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本を読み終えた翌朝のコラムである。

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ある本好きの友人と読書タッグを組んでいる。

課題図書を決めてイチニノサンで同時に読み始める。
読破中に時折、メールで進行状況や感想を知らせ合うこともある。

両方とも読み終わったら出来るだけ短く(200字くらいで)その本のエッセンシャルを書き表して記録する。


仲間がいると思うと、大好きな読書がさらに加速して日常を伴走してくれる。
先に読み終わりたいという些細な競争心も楽しいものだ。

えー、そこ大事なの。

自分が思っていたのとは違う果実が実ることもある。

そして枝葉を削ぎ落して、削ぎ落して、本当に大切な言葉だけを抽出して200字で感想を綴り組み立てる作業は一番大事な編集学校で学んだ基本技術だ。



課題図書はお互いが読んだことの無い本。
だいたい新刊になる。

今回の課題図書は、日本のキリシタンの迫害の歴史を、リュートという古代楽器を入り口に、興味の赴くままに辿っていく分量の多いエッセイである。

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「みんな彗星を見ていた 〜私的キリシタン探訪記〜」(星野博美著/文藝春秋)

スターバックスで語るような女子トークノリで、戦国時代に惨く処刑された信徒達の背景と、彼らへの古今の日本とカソリック本山のセンシティヴな対応を、著者は一人で追い、綴り始める。

高校2年の時に書いた遠藤周作『沈黙』の感想文がきっかけとなり、「輸入された」キリスト教の、日本という土壌への親和性を考え続けて、両親はクリスチャンながら結局今に至るまで受洗を避けてきた。
そんな自分と著者がどこかで重なるのではないかという期待が、この本にあったことは確かだ。

これは私の方が楽勝ね。

数ページ読んで、キリスト教に縁もゆかりも無い戦闘男子に、私は早くも勝利宣言をしたのだが・・・



『沈黙』において、ポルトガル司祭ロドリゴは、沢山のキリシタンに踏まれて摩耗した踏み絵のキリストの顔に静かに自分の足を置く。

そこには彼がこの世で最も尊いと思ってきたもの、人生のすべてを捧げてきた人がいた。
ロドリゴは暗い穴蔵の中でその人の言葉をはっきりと聞く。

「踏むがいい。おまえの気持ちは私が一番良く知っている」

高校生の私はそこでどっと涙を流しながら、それでもまだ厳格なカソリックの教えがそれを赦すのだろうかと何度も何度も逡巡した。




『みんな彗星を見ていた』は、迫害の中で棄教したロドリゴ側ではなく、正反対に鳥籠のような牢に囚われ、連日棄教を迫る拷問を受けながら、それでも信仰を捨てずに殉教した司祭たちと日本人信徒のバックボーンにスポットを当てて展開していく。

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信仰のために命を捨てる。

日本が多くの殉教者を出した背景として、生に執着して見苦しく生き延びるより名誉ある死を選ぶという武士道と親和性があったという見方も少なくない。

このあたりはまったく部外者かと思われた戦闘男子には響いたかもしれない。
あっという間に、先にゴールインされた。

この行為は当然カソリック総本山において最高の栄誉を受けるであろうことを私はずっと信じて疑わなかったが、著者は外国人司祭達の生きた場所や生まれ故郷、日本の布教の場を訪ね歩くうち、彼らが今も人々の心に燦然と輝く夜空の星としては必ずしも存在していないことに気付く。

背景には、当時日本を布教のターゲットとしたイエズス会と托鉢修道会の縄張り争いや、施政者に背いた先達を恥じる風潮や、日本が加害者となった罪悪感などが複雑に絡む。

殉教は犬死なのか。

自らの足でその問いを踏みしめて歩く著者の道行きは、どこか遠い昔、困難な航海を乗り越えて極東の島国へ辿り着いた司祭達の情熱と重なる。

永遠に輝く恒星になることはなく、また迫害を受けようとも、本山にそっぽを向かれようとも、彼らを一心に慕い命を捨てた多く日本人信徒達の前に、殉教した司祭達は一瞬に輝く美しい彗星となり、人々の心に明かりを灯して、喜んで帰天する階段を登ったのだろう。

その強さは図らずとも迫害を実行した幕府権力への脅威ともなったはずだ。



23日のコラムは、そんな本を読み終えた直後に、日本から追放された後に客死した戦国キリシタン大名の高山右近を、バチカンが列福した(福者と認めた)というものである。

実に右近の死後400年が経過している。

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ロドリゴのような棄教者と彗星となった殉教者。

前者は弱く、後者は強いのか。

否。

全く正反対の二つの選択は、実はキリスト教という大きな子宮の中で育まれた双生児だ。
この宗教の包括性と変容性の果てしない大きさが、私を今に至るまでそこに安易に踏み入ってはいけないとアラームを発したのではなかろうか。



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燗酒Bar。

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シャンパンバーに続いて、新宿◯勢丹、やってくれる。



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