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自宅、変容 [マイハーベスト]

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世の中にピンクのハートとカカオの香りを蔓延させたチョコレート戦線がようやく終わった。

世間がこぞって浮気足だつユニフォームなイヴェントを年々眇めて見るようになる。

若い頃から人とつるむことが苦手なので、今もってLINEもやらないし、チョコにもカボチャにも興味が無い。
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まあ、可愛くない。

この傾向は多分年と共に色濃く、私の雰囲気として体臭のように醸されるようになるんだろうと思う。




毎週ルーティンのように読む週刊新潮の書評欄に『未読の名作』というコーナーがある。
そこで、この本を見つけた。

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「変容」(伊藤整著/岩波文庫)

「銀狐のように白さを点綴したかくしげに包まれたその暗赤色の開口部は異様に猛々しかった」

これまでの自分の既読アーカイブに無い書評の引用文に目が釘付けになった。

60歳に近い男が60歳を超えた女を抱く。
そのあまりに自分に近い年齢の性がどう描かれるのか、決心して読むことにした。

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読んで先ず始めに驚くのは、著書が出版された当時(昭和43年岩波書店)の60歳が、完全な老境に身を置く仙人のような浄化された存在として、男女共に描かれることである。
出版当初、老人の性を大胆に描いたと評判になったらしいが、今や60歳はシルバーシートにすら座らない。
エクストリームな表現が溢れ返る現代においては大胆というよりむしろ、至極穏やか。


主人公は還暦が近い日本画家。

女性の姿態を芸術の素材として探求する彼の視線を通すため、冒頭の引用文で鼻血を出しそうになった殿方の熱い期待を見事に裏切った、非常にアーティスティックな女性讃歌に仕上がっている。

著者伊藤整はこの本が出版された翌年64歳で死去しており、画家北冥の迸るような豊かな女性観は、著者自身の好みの色彩が非常に濃いように思う。

既に功成り名を遂げた老境の男性が、自分の前に身体を開く何人かの女性をかき抱きながら、その中に自分の人生を重ね合わせて自己の老いを一つ一つ納得していく様は、生々しさが消えて、聖職者の告解のようにも思える。

いずれはらりと脱ぎ散らかる着物の縞柄を背景の襖や障子の桟という直線に重ね合わせて、匂い立つような美しい描写で表現される女性の姿態の曲線を際立たせる手法などは、画家を主人公に選ぶ著者の意図の見事さという他ない。


「生きることの意味をさぐり味わっている人間(女性)は、その性においてもその反響を全人間的に受け取っている。(中略)教養と人格を持った女性の性感こそ本当の性感であり、そのつつしみ、その恥じらい、その抑制と秘匿の努力にもかかわらず洩れ出で、溢れ出る感動が最も人間的なのではないか。」

最後に老境の女性の知性を性の最も高い頂きに捧げ置いた北冥の述懐は、人生を真摯に生きた女性(ひと)の老いは醜いものではなく、むしろその姿態を愛おしむ男性にとっては纏い付く虹色の薄衣になり得ることを示唆し、全女性へのオマージュとなっていることに素直に感動する。









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